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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)1574号 判決

控訴人 加藤膳治 外一名

被控訴人 国際自動車工業株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、被控訴人は控訴人加藤膳治に対し金五十万円の、控訴人加藤建設運輸株式会社に対し金九十五万円の各支払をせよ、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、控訴代理人において当審における控訴人兼控訴会社代表者(以下単に控訴人という)加藤膳治本人の尋問の結果を援用したほか、原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する(但し、原判決十三枚目裏十行目に「たで」とあるのは「たので」の、同十四枚目表二行目に「二面」とあるのは「二回」の、同十五枚目裏九行目に「留置場」とあるのは「留置権」の、同十七枚目表八行目に「本訴原告ら」とあるのは「本訴原告」の各誤記と認める)。

理由

被控訴会社が自動車の修理等を業とする会社であることは当事者間に争がないところ、昭和三十二年十二月三日頃控訴人加藤膳治からその所有の自動車神一-四七五〇号の修理を請負つたことは同控訴人の認めるところであるが、請負代金について被控訴会社は五十三万二千三百六十九円であると主張するのに対し控訴人加藤は三十三万円であると主張するので、この点について考えるに、いずれも成立に争のない甲第一号証の二、乙第六号証の一、原審証人森本修の証言(第一、二回)によると、右自動車は衝突事故により前部が大破し解体しなければ修理代金を見積ることができないため、被控訴会社は見積書を作成しなかつたけれども、控訴人加藤に対し修理を要する箇所を説明し概算六十万円の修理費を要する旨を告げ、同控訴人もこれを了承して修理を依頼し、被控訴会社において修理の結果、修理代金を合計五十三万二千三百六十九円とする請求書を明細書に添付して同控訴人に送付したことが認められ、右の明細書の記載には被控訴会社で修理をしない部分や特に高額な金額が含まれているという主張立証もないので、右自動車の修理代金は五十三万二千三百六十九円と確定されたものと認められる。そして右森本修の証言によれば、右代金は被控訴会社において修理を完了し控訴人加藤に引渡すと引換に支払を受ける約であつて、被控訴会社は昭和三十三年一月中に修理を完了し、控訴人加藤に対しこれを通知すると共に代金の支払を求めたことが認められる。原審(第一回)並びに当審における控訴人加藤本人の尋問の結果中右各認定に反する部分は措信できず、他にも右各認定を左右するに足りる証拠はない。

してみれば控訴人加藤は被控訴会社に対して右修理代金五十三万二千三百六十九円より、被控訴会社が訴外横浜日野デイーゼル株式会社に債権の一部を譲渡したと自陳する二十五万七千五百七十三円を差引いた二十七万四千七百九十六円、及びこれに対する修理完了し代金の支払を求めた後である昭和三十三年二月二十日から支払ずみとなるまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金を支払う義務あることが明らかである。

次に、被控訴会社が昭和三十二年十二月五日頃及び同月二十二日頃控訴会社からその所有の自動車神一-六九〇二号の修理を請負つたことは当事者間に争がなく、原審証人森本修の証言(第一、二回)によれば、右自動車についても、前記の控訴人加藤膳治所有の前記自動車の場合と同様、修理代金は被控訴会社において修理を完了し引渡すと引換に支払を受ける約であつたところ、被控訴会社は昭和三十三年一月中に修理を完了し控訴会社にこれを通知し代金の支払を求めたことが明らかである。そして控訴人らが前記自動車及び右自動車の修理代金を支払わないため、被控訴会社が留置権を行使して右両自動車の引渡をせず、昭和三十四年九月十四日右両自動車の修理代金中合計三十五万円の債権を訴外横浜日野デイーゼル株式会社に譲渡し、右両自動車を同会社に引渡したことは当事者間に争がない。

ところで控訴人らは、被控訴会社は本件の両自動車に製品を積んで走らせ或いは重量物を積載して道路に置き、車輛の一部を破損し或いは雨ざらしにしたりして、善良なる管理者の注意をもつて留置物を保管する義務に違反し、かつ留置物を使用したので、控訴人らは昭和三十三年九月一日付翌二日到達の内容証明郵便で被控訴会社に対し留置権の消滅を請求すると共に本件両自動車の引渡を求めたにも拘らず、被控訴会社は本件両自動車を控訴人らに引渡さず横浜日野デイーゼル株式会社に引渡して、控訴人らに対し、右引渡の履行遅滞により、控訴人らが自動車を使用して得べかりし営業上の利益を喪失せしめると共に、控訴人らの各自動車に対する所有権を侵害しその価格相当の損害を蒙らしめたと主張するので、右主張について考えるに、被控訴会社が控訴人らよりその主張の日その主張のような留置権消滅の意思表示並びに本件両自動車の引渡請求を受けたことは被控訴会社の認めるところであり、控訴人ら主張のような写真であることに争のない乙第四号証の一ないし四及び第五号証、原審(第一回)並びに当審における控訴人加藤膳治本人の尋問の結果及び原審証人森本修の証言(第一、二回)によれば、被控訴会社は本件の両自動車を部品の運搬に使用したり重量物を積載して道路に置いたりした事実が明らかであるから、控訴人らの留置権消滅の請求は相当であつて、これにより被控訴会社の本件両自動車の留置権は消滅したものといわなければならない。しかし、本件各自動車の修理請負契約において自動車の引渡は修理代金と引換になす約定であつたことは前記の各認定のとおりであるから、控訴人らから修理代金の支払ないしはその提供があるまでは、被控訴会社は留置権の消滅にかかわらず、自動車の引渡を拒み得ることは明らかであつて、控訴人らが修理代金の提供をなしたことにつき何らの立証のない本件においては、控訴人らは被控訴会社に対し自動車の引渡義務の履行遅延による損害賠償を求めるに由ないことは明白であり、また控訴人らは被控訴会社は本件両自動車を訴外横浜日野デイーゼル株式会社に引渡して控訴人らの所有権を侵害したと主張するけれども、本件口頭弁論の全趣旨によれば、右自動車の引渡は、被控訴会社が留置権を有するものとして債権譲渡と共にする留置権譲渡のためなされたものであることが明らかであるから、これにより控訴人らが本件自動車の所有権を喪失する理由はなく、もつとも、弁論の全趣旨によれば、訴外横浜日野デイーゼル株式会社はもともと控訴人らに対し本件各自動車の月賦販売代金債権を有し本件各自動車につき抵当権の設定を受けていたところから、本件各自動車につき競売の申立をしかつ自らこれを競落したことが窺われるので、控訴人らはこれにより本件各自動車の所有権を喪失したものということができるけれども、もしも被控訴会社が本件自動車を右訴外会社に引渡すことなくこれを占有していたとしても、自動車及び建設機械競売規則第四条の二による引渡命令を受けたときはその引渡をしなければならないのであるから、本件自動車を訴外会社に引渡したことにより訴外会社の抵当権の実行を容易ならしめたということもできないのであつて、控訴人らの被控訴会社に対し本件各自動車の価格相当の填補賠償を求める請求も亦到底採用できない。

よつて被控訴会社の控訴人加藤に対する本訴請求を認容し、控訴人らの被控訴会社に対する反訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条によりこれを棄却し、控訴費用の負担について同法第九十五条第八十九条第九十三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 牛山要 岡松行雄 今村三郎)

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